キンモクセイ
存在に気づいたのは
去年か一昨年の南大沢だったな。
トミーが言ったんだ。
『こんなに香る木があるんだね』
って。
私はそれまでこの匂いがキンモクセイだって知らなかった。
私もトミーも北海道出身で、北海道にキンモクセイはないからその匂いは新しかった。
成人しちゃうとみんなが普通に知ってることを知らないのは発見というか、どちらかと言えば恥ずかしいと感じてしまうことが多いけどこの夜は純粋に『へぇ』って思えたな。
小学生の頃、山の中を歩き回ってたときみたいに。
ドングリから緑の芽が出てて、あぁこれは“種”なんだと発見した時と同じ顔のほころびをしたと思う。
北海道の秋は“きゅう”って締め付けられるように始まる。
氷が固まる前のとこ。
息が白くなって
手はポケットに突っ込んで
空は高くて蒼くて
頬は赤くなって
山は、コントラストが強い深い色に。
そういう秋を何回も過ごしてきて
あの瞬間を愛してきたから
東京に来てそれが味わえないのは淋しいなと2、3年ひそかに嘆いていた矢先の
キンモクセイの登場でした。
東京の季節を一番、感じれるものかもしれないな。
風にのせて。